先月25日に、40年近くご交誼をいただいている渋沢雅英氏の「白寿を祝う会」に出席する機会を得ました。99歳の誕生日を迎えて、120人ほどの出席者を前にときどき原稿に目を落としながらも理路整然と話される姿勢と能力には敬服しました。40年間のご交誼をいただいていつも感銘を受けるのは、謙虚な姿勢と話しのされ方です。70年代半ばに初めて渋沢氏にお会いし、現在、ACC21が事務局を担当する「公益信託今井記念海外協力基金」と「公益信託アジア・コミュニティ・トラスト(ACT)」が設立された当初には、東南アジアの訪問経験のない私を指導してくださいました。そして渋沢氏が1964年に創設された財団法人MRAハウスの理事として90年代に関わる機会を与えられたときは、さらなるご指導をいただきました。曾祖父の渋沢栄一は、明治から大正にかけて日本の経済活動の基礎をつくる一方、福祉や女子教育の面でも大きな役割を果たした人です。
「白寿を祝う会」閉会後に出席者に配られたお返しの手提げ袋に、渋沢氏ご自身の講演録『若さでつくる世界』(70年1月の東京織物卸商業組合主催の「成人を祝う会」での講演)がありました。40ページほどの講演録ですが、54年前に成人式を迎えた600人の若者を前に語った渋沢氏の言葉には、当時のベトナム戦争への若者を中心とした反戦運動が世界的に拡がる社会変容の中で生きる若者への熱いメッセージが込められています。
私の印象に残ったメッセージに以下の言葉があります。69年末にアメリカで当時の話題になっていた「ヘアー」というミュージカルを観劇し、渋沢氏は「着物を脱ぐのと同じように、自分の心のカラを脱ぐことができたら素晴らしいだろう、、、。物質的、社会的制約のほかに、人間の心はプライドだとか、恐れだとか、嫉妬心だとか、色々の枠をはめられています。」と考えました。
そして、渋沢氏は、若者たちにありのままの自分を知ることの大切さを訴え、人間の3つの姿、すなわち、自分の考えている自分、他人が見る自分、神さまからみた自分の3つのイメージが一致すれば、「その人は全く正直であり、恐れるものは何ひとつない自由な人だ、、、。そこで、(自分は)ひとりでありのままの自分をみつめ、自分自身と正直な対話をかわしてみようと思い立ったのです。」と。
さらに、「その人がいい人悪い人か、(中略)、役に立つか立たないか、そういう事情に関係なく、その人が人間であるが故に愛をおくる。そういったことが、これからの世界のために、人間関係のために、大変必要なのではないか」と強く訴えられました。
渋沢氏の54年前の思想は、ウクライナやガザで無残にも人の命を奪い合う現代世界において最も必要なことではないかとの思いを強くし、本誌のメルマガの読者の皆さんと共有したいと考えた次第です。
(注:『若さでつくる世界』をご希望の方は、ACC21事務局にご連絡ください。)